ここでは訓令式ローマ字について詳しく説明しています。印刷できる「ローマ字表」は「おさらい」にあります。名前の書き方を知りたい場合は「お名前の ローマ字 変換」または「ふりがなの ローマ字 変換」をお使いください。一般的な名前のローマ字を集めた「お名前の ローマ字 一覧表」もあります。名前の書き方(姓と名の順序など)については「人名」もお読みください。訓令式以外の方式について知りたい場合は「いろいろ」へどうぞ。
訓令式
KUNREISIKI
あらまし
Aramasi
明治時代から ローマ字には いろいろな 方式が あり,それらの 中で 有力な ヘボン式と 日本式が 対立 して 混乱が つづいて いました。そこで,ローマ字の かきかたを 統一 しようと いう ことに なり,1937(昭和12)年に 公式の ローマ字が つくられました。それが 訓令式です。
戦後,GHQが 一部の 分野で ヘボン式を 強制 した こと などから,ローマ字は ふたたび 混乱 して しまいましたが,1954(昭和29)年に あらためて 訓令式を 公式の ローマ字と する ことが きめられました。
日本語を ローマ字で かく ときは 基本的に 訓令式を もちいる ことに きまって います。ローマ字には 国際標準化機構(ISO)が さだめて いる 国際標準の ISO 3602も ありますが,その 中身は 訓令式です。
ローマ字は 人名・地名 などの 名前では なく 文章を かく ために つくられた ものです。つまり,ローマ字は 日本語の 表記法です。したがって,日本語の 性質に あった かきかた,日本語で くらして いる 人が つかいやすい かきかた,小学生でも おぼえられる かんたんな かきかたで なければ いけません。訓令式は そのように 設計 された 方式で,日本語を かくのに ふさわしい ローマ字です。小学校の「国語」で 訓令式を おしえるのは このためです。ローマ字は 日本語の 一部で あり,ローマ字の 勉強は 日本語の 勉強です。
訓令式は 発音の 正確さより つづりの 規則性を 優先 した 方式で,ヘボン式は 発音を 正確に しめせるけれども つづりが やや 不規則な 方式だと 説明 される ことが よく あります。しかし,これは とんでもない まちがいです。訓令式と ヘボン式の ちがいは あとで くわしく 説明 します。
訓令式の「ローマ字表」
Kunreisiki no "Rômazi-hyô"
訓令式の「ローマ字表」を 下に しめします。ヘボン式も 一緒に した「ローマ字表」は「「国語」の ローマ字」に あります。
直音 | 拗音 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
ア | イ | ウ | エ | オ | |||
a | i | u | e | o | |||
カ | キ | ク | ケ | コ | キャ | キュ | キョ |
ka | ki | ku | ke | ko | kya | kyu | kyo |
サ | シ | ス | セ | ソ | シャ | シュ | ショ |
sa | si | su | se | so | sya | syu | syo |
タ | チ | ツ | テ | ト | チャ | チュ | チョ |
ta | ti | tu | te | to | tya | tyu | tyo |
ナ | ニ | ヌ | ネ | ノ | ニャ | ニュ | ニョ |
na | ni | nu | ne | no | nya | nyu | nyo |
ハ | ヒ | フ | ヘ | ホ | ヒャ | ヒュ | ヒョ |
ha | hi | hu | he | ho | hya | hyu | hyo |
マ | ミ | ム | メ | モ | ミャ | ミュ | ミョ |
ma | mi | mu | me | mo | mya | myu | myo |
ヤ | ユ | ヨ | |||||
ya | yu | yo | |||||
ラ | リ | ル | レ | ロ | リャ | リュ | リョ |
ra | ri | ru | re | ro | rya | ryu | ryo |
ワ | ヲ | ||||||
wa | o | ||||||
ガ | ギ | グ | ゲ | ゴ | ギャ | ギュ | ギョ |
ga | gi | gu | ge | go | gya | gyu | gyo |
ザ | ジ | ズ | ゼ | ゾ | ジャ | ジュ | ジョ |
za | zi | zu | ze | zo | zya | zyu | zyo |
ダ | ヂ | ヅ | デ | ド | ヂャ | ヂュ | ヂョ |
da | zi | zu | de | do | zya | zyu | zyo |
バ | ビ | ブ | ベ | ボ | ビャ | ビュ | ビョ |
ba | bi | bu | be | bo | bya | byu | byo |
パ | ピ | プ | ペ | ポ | ピャ | ピュ | ピョ |
pa | pi | pu | pe | po | pya | pyu | pyo |
※ カタカナは 音声を しめして います。
※ 印刷用の「ローマ字表」(A4サイズ)も あります。
訓令式の きまり
Kunreisiki no kimari
- 撥音(ん)は n で あらわします。撥音の つぎに 母音 または ヤ行音が ある ときは きる印(')で くぎります。
- 促音(っ)は つぎの 子音字を かさねます。
- 長音(ー)は のばす 音の 母音字に 山形(^)を のせます。
onsen(温泉)
sinbun(新聞)
hon'ya(本屋)
kitte(切手)
zassi(雑誌)
itti(一致)
utyû(宇宙)
kibô(希望)
takusî(タクシー)
Tôkyô(東京)
Yamada Tarô(山田太郎)
Mukasi mukasi, aru tokoro ni ozîsan to obâsan ga imasita.
ここでは イ段の 長音を î で あらわして いますが,これを ii に する かきかたも あります。くわしくは「î を ii と かく?」を およみ ください。
takusii(タクシー)
ローマ字の かきかたは「かきかた」で くわしく 説明 して います。
「四つの言葉」から「小鳥」(昔の 教科書)
レオナルド・ダ・ビンチ「随想録」より。カルデリノは イタリア語で,日本では ラテン語の Charadrius から カラドリウスと よんで いる ようです。
「徳の愛」は カトリックが 重視 する 美徳の ひとつです。ラテン語は caritas。英語の charity(慈善)の 語源です。
おぎない
Oginai
訓令式と いう 名前
Kunreisiki to iu namae
「訓令式」は 訓令で さだめられた ことから 自然に ついた 名前です。正式の 名前では ないので 文部科学省も「いわゆる 訓令式」と かいて いたり します。訓令とは 行政機関に たいする 命令で,訓令式を さだめた 訓令は 1937(昭和12)年9月21日に だされた 内閣訓令第3号「国語ノローマ字綴方統一ノ件」です。これで 公式の ローマ字が さだめられ,ルール上は ローマ字の つづりかたが 統一 されました。ただ,この あたらしい 方式には 名前が ついて いなかったので,ヘボン式や 日本式と 区別 する ため「訓令式」「国定式」などと よばれる ように なり,やがて「訓令式」に おちついたと いう わけです。
この 訓令は 1954(昭和29)年12月9日に だされた 内閣訓令第1号「ローマ字のつづり方の実施について」で あらためられました。しかし,この あたらしい 訓令には おおきな 問題が あり,ローマ字の 混乱を まねいて います。くわしくは 「ローマ字のつづり方」で 説明 して います。
ふりがなの ABC表記? 発音の ABC表記?
Hurigana no ABC-hyôki? Hatuon no ABC-hyôki?
ふりがなを ABCに おきかえた ものが ローマ字だと おもって いる 人が いますが,これは よく ある おもいちがいです。ローマ字は 日本語の 音声を ABCで かいた ものです。ローマ字の つづりは ことばの 音声で きまります。ふりがなでは きまりません。
日本語の 発音を 外国人に しめす 目的で ABC表記に した ものが ローマ字だと おもって いる 人も いますが,これも よく ある おもいちがいです。ローマ字に 正確な 発音を しめす 目的は ありません。じっさい,そんな はたらきは なく,日本語を しらない 外国人が ローマ字を みても,それを ただしい 発音では よめません。
このように,ローマ字は ふりがなの ABC表記でも 正確な 発音の ABC表記でも ありません。それでは いったい なんなのかと いうと,日本語の 表記法の ひとつです。漢字や かな文字を つかわず,日本語の 音声を ABCで かく しくみです。ただし,その 音声は 口から でる 物理的な 音声では ありません。日本語で くらして いる 人の 頭の 中に ある 心理的な 音声です口から でる 物理的な 音声と 頭の 中に ある 心理的な 音声は ちがいます。口から でる 音声で いえば,「音程」「音符」「音楽」の【ン】は すべて ちがい,【ハ】【ヒ】【フ】の 子音も すべて ちがいます。したがって,発音記号は これらの 音声を すべて ちがう 記号で かきます。しかし,日本語は これらの ちがいを 区別 しないので,日本語で くらして いる 人は これらの ちがいを 意識 して いません。ローマ字(訓令式)は この 意識に あわせて これらの 音声を おなじ つづりで ontei, onpu, ongaku; ha, hi, hu と かきます。このように,ローマ字(訓令式)は 頭の 中で おなじだと おもって いる 音声を おなじ つづりで かき,ちがうと おもって いる 音声を ちがう つづりで かきます。。
ローマ字と ふりがな
Rômazi to hurigana
ふりがな・ローマ字
ふりがなと ローマ字は おなじ 音声を ちがう 表音文字で かいた ものです。
ふりがなは 〇〇なのに ローマ字が ✕✕なのは なぜですかと 質問 する 人が よく います。これは ふりがなを ABCに 変換 した ものが ローマ字だと かんちがい して いる 人が おおいからです。ローマ字入力が つかわれる ように なってから この かんちがいが ふえて います。
日本語の 音声を ラテン文字(ABC)で かいた ものが ローマ字で,かな文字で かいた ものが ふりがなです。ローマ字と ふりがなは おたがいに 独立 した もので,これらの あいだに 直接の つながりは ありません。しかも,音声を 文字列に 変換 する ルールが ちがうので,一般に ローマ字の つづりと ふりがなの つづりは 対応 しません。
歴史的仮名遣いを つかって いた 時代は これが もっと はっきり して いました。たとえば,明治時代の 日本人は「川(かは)」「今日(けふ)」「声(こゑ)」を kawa, kyô, koe と かいて いました。戦後に ふりがなの かきかたが 近代化 されて,ローマ字の かきかたに ちかづいた わけです。
ただし,ふりがなは まだ ローマ字に おいついて いない ところが あり,ふりがなの かきかたと ローマ字の かきかたは おなじに なって いません。ふりがなは 近代化が おくれて おり,まだ 音声と つづりの 対応に いくつかの ずれが のこって います。くわしくは「棒引き仮名遣い」を およみ ください。
完全に 自動では ふりがなを ローマ字に 変換 できません。ふりがなを ローマ字に 変換 すると うたって いる ツールは インターネットに 公開 されて いる ものだけでも たくさん ありますが,ふりがなを 入力 する ツールで 確実に ただしい ローマ字を 出力 できる ものは ひとつも ありません。くわしくは「なぜ ふりがなでは ダメなのか?」を およみ ください。
ローマ字と ローマ字入力
Rômazi to Rômazi-nyûryoku
ローマ字入力は ローマ字を 日本語入力システムに 応用 した ものです。ただし,その 設計に まずい ところが おおく,ただしい ローマ字を 入力 して それを そのまま 漢字かな表記に 変換 する 自然な しくみでは ありません。独自方式の ローマ字で ふりがなを 入力 して,その ふりがなを 漢字かな表記に 変換 すると いう まわりくどい しくみです。たとえば,hikôki を 入力 して「飛行機」に 変換 するのでは なく,hi, ko, u, ki で「ひ」「こ」「う」「き」を 入力 して,それを「飛行機」に 変換 します。
ローマ字と ローマ字入力は まったく ちがう 別の もので,ローマ字の かきかたと ローマ字入力の キーの おしかたは ちがいます。音声を【 】で,ふりがなを「 」で あらわすと,つぎの ように なります。
ローマ字 | ローマ字入力 | |
---|---|---|
こんにちは | 【コンニチワ】→ konnitiwa | konnnitiha →「こんにちは」 |
王様 | 【オーサマ】→ ôsama | ousama →「おうさま」 |
オオカミ | 【オーカミ】→ ôkami | ookami →「おおかみ」 |
空気 | 【クーキ】→ kûki | kuuki →「くうき」 |
ケーキ | 【ケーキ】→ kêki | ke-ki →「けーき」 |
学校の「国語」で おしえる ローマ字と ローマ字入力で つかう ローマ字が くいちがって いるのは ローマ字入力の 設計が おかしいからです。この 問題は ローマ字入力の しくみを あらためる ことで 解決 できます。くわしくは「ふたつの ローマ字を 統一 する」を およみ ください。
かきかたで 気を つける ところ
Kakikata de ki o tukeru tokoro
訓令式の「ローマ字表」は 子音字と 母音字が タテ・ヨコに 規則的に ならんで います。しかし よく みると,【ヂ】【ヅ】【ヂャ】【ヂュ】【ヂョ】【ヲ】の 部分が 不規則です。ローマ字入力の ローマ字は これらの 部分も 規則的です。そのため,ローマ字を よく しらない 人や ローマ字入力に なれて いる 人は「鼻血(はなぢ)」「三日月(みかづき)」を hanadi, mikaduki と かいて しまう ことが あります。これは まちがいですから 気を つけて ください。
なぜ「ぢ」「づ」を di, du と かかないのか,不思議に おもうかも しれませんが,その 理由は かんたんです。ローマ字は 日本語の 音声を ABCで かく ものだからです。音声を かく わけですから,おなじ 音声は おなじ つづりで かきます。いまの 共通語では「じ/ぢ」「ず/づ」の 音声は おなじなので,「じ/ぢ」は zi で 統一 し,「ず/づ」は zu で 統一 する ルールに なって います。ローマ字は ふりがなを ABCに 変換 した ものでは ない ことに 気を つけて ください。
ときどき,di, du に すると 外国人が【ディ】【ドゥ】(または【デュ】)と よんで しまうから こういう ルールに して あるのだと いわれる ことも ありますが,そんな 理由では ありませんローマ字を 発音記号の ような ものだと おもって いる 人は おおいのですが,それは よく ある おもいちがいです。ローマ字は 日本語の 表記法の ひとつです。したがって,訓令式は 日本語の 性質に あわせて 設計 して あります。外国人に どう よまれるかは まったく 関係が ないので かんがえに はいって いません。中国や 韓国の ローマ字も 中国語や 韓国語の 性質に あわせて 設計 されて いて,外国人に どう よまれるかで つづりが きまって いるのでは ありません。英語の つづりも フランス語の つづりも 外国人に どう よまれるかを かんがえて つくって ある わけでは ないでしょう。ある 国の 言語の 表記法が その 国の 人で なく 外国人の 都合で できて いる なんて ことは,植民地でも ない かぎり,ふつうは ありません。。
これと おなじ 理屈で,「じゃ/ぢゃ」「じゅ/ぢゅ」「じょ/ぢょ」は zya, zyu, zyo で 統一 し,「お/を」は o で 統一 する ルールに なって います。
こまかい はなしを すれば,四つ仮名(じ・ず・ぢ・づ)の かきかたには すこし まずい ところが あります。これは 訓令式の 弱点です四つ仮名は 現代仮名遣いと おなじ ように D と Z を つかいわける かきかたに すると いいでしょう。その ばあい,「鼻血(はなぢ)」「三日月(みかづき)」は hanadi, mikaduki です。くわしくは「もっと 日本語らしい かきかた」を およみ ください。。
訓令式と ヘボン式の ちがい
Kunreisiki to Hebonsiki no tigai
訓令式は 日本人が 日本語を かく ために つくった 日本語らしい かきかたで,ヘボン式は アメリカ人が 日本語を よむ ために つくった 英語風の かきかたです。具体的な つづりや こまかい 規則の ちがいは「ローマ字の 比較」で 説明 して います。
ヘボン式は 訓令式より 発音を 正確に あらわして いて,ヘボン式で かけば 外国人が ただしい 発音で よめると いわれる ことが おおのですが,これは 完全な まちがいです。訓令式の si, ti, tu, hu, zi と ヘボン式の shi, chi, tsu, fu, ji は まったく おなじ 発音で,どちらも 日本語の 発音を 正確に あらわして います。ローマ字は 日本語の 表記法で あり,日本語を しって いる 人が かいて 日本語を しって いる 人が よむ ものです。日本語を しらない 外国人は どちらの 方式も ただしい 発音では よめません。
訓令式は 小学生が おぼえやすい ように ルールを 単純化 した かきかただとか,いまは つかわれなく なった ふるい 方式だとか,そんな ふうに おもって いる 人も いますが,これも まちがいです。訓令式は 日本語の 性質に あわせて 設計 して あるから 規則的で,ヘボン式は そうで ないから 規則性が みだれて 複雑化 して います。そして,訓令式は ヘボン式より あとに つくられた あたらしい 方式です。
音声学的には 訓令式より ヘボン式の ほうが すぐれて いると いわれる ことも ありますが,これは ローマ字と 発音記号の 混同から おこる かんちがいです。訓令式は 世界の 言語学者にも みとめられた 理論的な かきかたですが,ヘボン式は 言語学の 専門知識を もたない 宣教師が つくった ものですから,理論的に すこし まずい ところが あります。訓令式と ヘボン式の どちらが すぐれて いるかと いう 不毛な 議論を いまでも みかけるのは,ヘボン式が 学術的に 否定 されて 訓令式が できた 事実を しらない 人が おおいからでしょうヘボン式と 日本式の 対立を 解消 して ローマ字を 統一 する はなしあいは 6年にも およびましたが,最終的に 日本式が 理屈に あって いると みとめられました。ヘボン式は 学術的に 否定 された わけです。訓令式は 基本的に 日本式の かんがえかたを うけついだ 方式です。。
もともと ローマ字は 外国人が 日本語を よむ ために 外国語風の つづりで かいた 外国人むけの ふりがな みたいな ものでした。日本人が「英語」の 教科書に かきこむ「ディス イズ ア ペン」式の カタカナ表記と おなじです。ヘボン式は そんな ローマ字の ひとつで,英語を はなす 人が 日本語に つけた ふりがな みたいな ものです。外国人が ただしい 発音で よめると いうのは 完全な あやまりで,英語を はなす 人が よめば ただしい 発音に ちかづく 部分が あると いうだけです。(子音の 一部は ただしい 発音に ちかづきますが,逆に 母音は ただしい 発音から はなれます。)英語を はなさない 人が よめば めちゃくちゃな 発音に なる ことも あります。
訓令式は 日本人が 日本語を かく ために つくった ものですから,設計方針が ちがいます。日本語らしい かきかたに なる よう,日本語の 音韻(おんいん)に もとづいて 設計 して あります。音韻は すこし むつかしい ことばですが,かんたんに いえば,ある 言語の はなし手が ちがいを 意識 して いる 音声です。訓令式は 日本語の はなし手が ちがいを 意識 して いる 音声を ちがう つづりで かき,ちがいを 意識 して いない 音声を おなじ つづりで かきます。つまり,日本語で くらして いる 人の 頭の 中に ある 心理的な 音声を その とおりに かく 方式です。くわしくは「音韻論」を およみ ください。
訓令式が【タ・チ・ツ・テ・ト】の 子音を おなじ t で かき,「パンダ」の【ン】と「サンマ」の【ン】を おなじ n で かくのは,日本語で くらして いる 人が タ行の 子音の ちがいや【ン】の 発音の ちがいを 意識 して いないからですある 言語で くらして いる 人が どの 音声の ちがいを 意識 して どの 音声の ちがいを 意識 しないかは その 言語の 性質に よります。日本語は【チ】と【ティ】や【ツ】と【トゥ】を 区別 しない 性質を もって います。五十音図で「た・ち・つ・て・と」が おなじ 行に ならんで いるのは その あらわれです。英語の two は 日本語に なって いますが,それを【ツー】と 発音 しても【トゥー】と 発音 しても ちがいは ありません。動詞「勝つ」の 活用は【カタナイ】【カチマス】【カツ】で あって,【カタナイ】【カティマス】【カトゥ】では ありませんが,もし 外国人が まちがって そんな 発音を して しまっても 意味が つうじます。だから,日本語で くらして いる 人は これらの ちがいを 意識 する 必要が ない わけです。ローマ字の 設計に あたって,日本語が 区別 しない ものを 区別 しない かきかたに すれば,それは 日本語を かくのに ふさわしい ローマ字に なる はずです。訓令式は こういう 方針で 設計 されて います。ローマ字は 日本語の 表記法ですから,日本語の 性質に あわせて つくって ある わけです。なお,ヘボン式は 音声を 重視 した 表記で 訓令式は 音韻を 重視 した 表記なので,外国人むけの 表示には 音声が わかりやすい ヘボン式が ふさわしいと いう 解説を ときどき みかけますが,これは まちがいです。ヘボン式も「ローマ字表」が 五十音図の 形に かかれて いるのですから,基本的には 日本語の 音韻を もとに した かきかたです。ただし,ヘボン式は 英語の 音韻に ひきずられて しまって,おなじと みなす べき 子音を ちがう つづりで かいて いる ところが あります(s/sh, t/ch/ts, h/f など)。。
ta, ti, tu, te, to
(た・ち・つ・て・と)
panda(パンダ)
sanma(サンマ)
頭の 中で おなじだと おもって いる 音声を おなじ つづりで かき,ちがうと おもって いる 音声を ちがう つづりで かく しくみは,外国語を 表音文字で 記述 する しくみと おなじです。つまり,訓令式は 世界的に みても ごく 普通の 自然な つづりかたです。
ここで 説明 した ことは「ローマ字の かんがえかた」で もっと くわしく 解説 して います。
訓令式が つかわれない 理由
Kunreisiki ga tukawarenai riyû
ルールと 現実の くいちがい
Rûru to genzitu no kuitigai
ローマ字の かきかたには「ローマ字のつづり方」と いう 公式の ルールが あり,日本語を ローマ字で かく ときは 基本的に 訓令式を もちいる ことに きまって います。かりに そんな ルールが なかったと しても,ローマ字は 日本語の 表記法なのですから,日本語を たいせつに すると いう 理念から いっても,日本語らしい かきかたに すると いう 理屈から いっても,訓令式を もちいる べきです。くわしくは「訓令式の 根拠」「ヘボン式か 訓令式か」を およみ ください。
ところが,訓令式を つかう 人は あまり いません。ほとんどの 人は ヘボン式を うたがいも せず うけいれて います。また,みずから すすんで ヘボン式を つかって います。これには いくつか 理由が あります。
理由は 政策と 教育
Riyû wa seisaku to kyôiku
会社の ロゴタイプ
会社の 名前の ローマ字表記は ヘボン式が おおく,訓令式の NISSIN は めずらしい 例です。
まず,日本の 政府や 経済界が ヘボン式を つかって いるので,ヘボン式が 正式の ローマ字だと かんちがい されて いる ことです。政治的な 理由で,パスポートの ローマ字,道路標識の ローマ字 など,公の 分野で つかわれる ローマ字は すべて ヘボン式の 変種に なって います。ビジネス上の 理由で,会社の 名前の ローマ字も ほとんどが ヘボン式の 変種です。芸能人の ニックネーム なども そうでしょう。これらが かんちがいを ひろめて います。ただしい ローマ字を かきたいと おもいながら,ルールを かんちがい して ヘボン式を つかって いる 人は おおいと おもわれます。
英語教育にも 問題が あります。「英語」の 教科書が ヘボン式から 派生した「英語式」を 採用 して いる ことです。これが「国語」で ならった ただしい ローマ字の 知識を うわがき して しまいます。「英語式」は あくまでも 英語の かきかたで あって,ただしい ローマ字では ないのですが,おおくの 英語教師は この 区別が わかって おらず,ただしい ローマ字と 英語の かきかたを きりわけて おしえて いません。ヘボン式なら 外国人が ただしい 発音で よめると おしえられた 記憶が ある 人は おおく,英語教師が うそを おしえて いる うたがいも あります。英語教育に 関心を もつ 人や 英語だけ 得意な 人が 訓令式を 否定 して いる ことも よく あります。このように,あやまった 英語教育の せいで,まるで 訓令式が おとった 方式で あるかの ように おもわれて います。規則上は 訓令式が 制定 されて いるから 形式的に 小学校で おしえる けれども,本当は ヘボン式が すぐれた 方式だと かんがえて いる 人は おおいでしょうきびしい ことを いう ようですが,小学校や 塾で 英語を おしえて いる 人を ふくめて,一部の 英語教師の 不勉強は 目に あまります。よく ローマ字教育の せいで 英語が わからなく なって いると いわれますが,事実は その 反対です。英語教育の せいで ローマ字が わからなく なって います。ちかごろは SNSの インフルエンサーに よる 悪影響も みすごせません。翻訳・通訳の プロ,外国で くらして いる 人,小学生の 保護者 などには 日本の 英語教育に 関心を もって いる 人が おおく,こういう 人たちが ローマ字教育や 訓令式の 廃止を 熱心に うったえるので,手が つけられなく なって います。。
国際理解教育に 力が そそがれて いない せいで,日本人の 国際感覚が まずしい ことも 理由の ひとつです。日本人の おおくは 国際化の 意味を ただしく 理解 して おらず,なんでも 英語風に すれば 国際的に なると かんちがい して います。そのうえ,経済界や 教育産業から「英語コンプレックス」を うえつけられて います。いわゆる「英語かぶれ」の 日本人が 外国で 軽蔑 されて いる ことも あります。はずかしい はなしですが,いまは こういう ありさまで,英語の つづりで かける 外来語を ローマ字で かくのは おかしいとか,英語風の つづりで ない 訓令式は かっこわるいとか,そんな 感覚が ひろまって います。
TINTIN
Tintinは ベルギーの 漫画(バンドデシネ)の キャラクターです。原作は フランス語なので,Tintinの よみかたは【タンタン】です。写真は ロンドンに ある お店。
ローマ字には 正確な 発音を しめす 目的も 機能も ないのですが,なぜか ABCを 発音記号 みたいな ものだと おもって いる 人が おおい ことも あります。この かんちがいを して いる 人は,sa が【サ】なら si は【スィ】で ta が【タ】なら ti は【ティ】だと かんがえて います。しかし,ABCと 発音記号は まったく ちがう ものです。つねに おなじ よみかたを する 発音記号と ちがって,ABCは 状況に よっても 言語に よっても よみかたが かわります。たとえば,イタリア語は ca を【カ】,ci を【チ】と よみます。スペイン語は ga を【ガ】,gi を【ヒ】と よみます。中国語は xi を【シ】,qi を【チ】と よみます。chi は 英語なら【チ】と よみますが,フランス語なら【シ】,ドイツ語なら【ヒ】,イタリア語なら【キ】と よみます。ABCの よみかたとは こういう ものです。ところが,英語 以外の 外国語に かんする 知識が ない せいで,外国人は みんな chi を【チ】と よむ ものだと おおくの 人が おもいこんで います。その 結果,【チ】を chi と かく ヘボン式は 国際的で すぐれた 方式だと はやとちり して,すすんで ヘボン式を つかう 人が でて きますしらない 外国語の つづりを みて 正確な 発音が わかった 経験 なんか ない はずなのに,ABCを 発音記号と かんちがい して いる 人が おおいのは じつに 不思議な ことです。訓令式で tya, tyu, tyo を【チャ】【チュ】【チョ】と よむのが 変だと いわれる ことも ありますが,おかしな ことでは ありません。英語の meet you の 発音は【ミーチュー】に ちかいでしょう。日本でも 人気が ある「うさこちゃん(ミッフィー)」は オランダうまれの キャラクターで,オランダ語の 名前は Nijntje(ナインチェ)です。この つづりを よく みると,tje を【チェ】と よんで いるのが わかります。一般に j は【ヤ】【ユ】【ヨ】の 子音を かく 文字で,ローマ字の y に あたりますから,tye を【チェ】と よんで いる ような ものです。こう かんがえると,tya, tyu, tyo が【チャ】【チュ】【チョ】でも おかしく ないのが わかるでしょう。【ティ】と【チ】は 発音が にて いて,しかも【チ】の ほうが 楽に 発音 できるので,【ティ】が【チ】に かわる 現象は よく おこります。日本語の「ち」の 発音も,いまは【チ】に かわって いますが,もともと(奈良時代 くらい)は【ティ】でした。。
このように,訓令式が つかわれない 理由は あやまった 政策と かたよった 教育で あると いえます。
おくれて いる 日本
Okurete iru Nippon
「北京」の ピンイン表記
現在,国際的な 場で「北京」は Beijing と かかれます。これは ピンインと いう 中国の ローマ字です。ピンインは 中国語の 性質に あわせて 設計 された 中国語らしい つづりかたです。けれども,すこし 前まで「北京」は Peking と かかれて いました。これは 英国人が つくった ウェード式と いう ローマ字です。中国は 英語風の ウェード式を やめて,中国語らしい ピンインに のりかえたのです。外国に たいしても ピンインを もちいる ように はたらきかけたので,いまでは 外国の 新聞も「北京」を Beijing と かいて います。
さて,日本は どうでしょうか。国際的な 場で「東京」は 英語風に Tokyo と かかれます。訓令式は 国際標準(ISO 3602)にも なって いるのですが,日本政府は これを 無視 して います。外国人は 日本で よく つかわれる ローマ字が 英語に にて いるのを 不思議に おもって 話題に する ことも ありますが,ほとんどの 日本人は その おかしさに 気づいて いません。こんな ありさまの 日本は,ローマ字に かんする かぎり,中国より おくれて いると いわなければ なりません。
[よみもの]Zyappu
[Yomimono] Zyappu
Zyappu
nanbâ 17 natu gô 1998
natu da samâ da!
Inamori Izumi no sitai,
Tocca no wanpîsu de
1990年代に Zyappu(ジャップ)と いう 季刊の ファッション雑誌が ありました。日本人を さげすんで いう 英単語を おもわせる タイトルは 反骨の 心意気を あらわす ものでしょう。この 雑誌の 内容も 服装情報誌の 枠に おさまらない 挑戦的な ものでした。
写真家でも ある 編集長の 伊島薫(いじま かおる)は ファッション雑誌を「理想の追求と実験の場」だと いって,実験的な 写真を すすんで とりいれました。中でも 刺激的だったのは,有名ブランドの 服を きた 女優が 死体を 演じる「連続女優殺人事件」シリーズです。伊島薫が うつくしさを おいもとめた 企画で,たいへん 人気が あった ようです。
誌面の デザインでも さまざまな ところで 実験的な こころみを おこないました。文章だけの ページでさえ 美術系の 雑誌に みえる ほどの できばえでした。この 雑誌の タイトルは もともと カタカナ表記の「ジャップ」だったのですが,それを ローマ字の Zyappu に かえたのも そんな こころみの ひとつです。のちには 広告 などを のぞく すべての 文章を ローマ字がきに して よみ手を おどろかせました。
Zyappu は 第21号まで 発行 されましたが,1999年に 出版社が たおれ,おしまれながら 休刊と なりました。