訓令式

あらまし

明治時代から ローマ字には いろいろな 方式が あり,それらの 中で 有力な ヘボン式日本式の 対立が つづいて 混乱 していました。そこで,ローマ字の 書きかたを 統一 しようという ことに なり,1937(昭和12)年に 公式の ローマ字が つくられました。これが 訓令式です。訓令式は 日本式の かんがえかたを うけつぎました。かんたんに いえば,日本式を あたらしく したのが 訓令式です。

戦後,GHQが 一部の 分野で ヘボン式を 強制 した ことなどから,ローマ字は ふたたび 混乱 して しまいましたが,1954(昭和29)年に あらためて 訓令式を 公式の ローマ字と する ことが きめられました。日本語を ローマ字で 書く ときは 訓令式を もちいる ことに きまっています。それが 日本語の ルールです。


ローマ字は 人名や 地名を 書く ために あるのでは なく,日本語の 文章を 書く ために あります。日本語を 世界に 通用 する 文字で 合理的に 日本語らしく 書く ことが ローマ字の 目的です。したがって,ローマ字は ただ ABC で 書けば いいという ものでは なく,日本語で 生活 している 人が おぼえやすく つかいやすい 書きかた,日本語の 性質に あった 書きかたで なければ いけません。訓令式は そのように 設計 された 方式で,日本語を 書くのに ふさわしい ローマ字で あると いえます。これが 小学校の「国語」で 訓令式を まなぶ 理由です。

「ローマ字表」

「ローマ字表」を 下に しめします。教科書などで よく みる,訓令式ヘボン式を 一緒に まとめた「ローマ字表」は「「国語」の ローマ字」に あります。

直音拗音
aiueo
キャキュキョ
kakikukekokyakyukyo
シャシュショ
sasisusesosyasyusyo
チャチュチョ
tatitutetotyatyutyo
ニャニュニョ
naninunenonyanyunyo
ヒャヒュヒョ
hahihuhehohyahyuhyo
ミャミュミョ
mamimumemomyamyumyo
yayuyo
リャリュリョ
rarirureroryaryuryo
wao
ギャギュギョ
gagigugegogyagyugyo
ジャジュジョ
zazizuzezozyazyuzyo
ヂャヂュヂョ
dazizudedozyazyuzyo
ビャビュビョ
babibubebobyabyubyo
ピャピュピョ
papipupepopyapyupyo

※ カタカナは 音声を しめしています。

印刷用の「ローマ字表」(A4サイズ,2ページ)も あります。

そのほかの とりきめ

  1. 撥音(ン)は n で あらわします。撥音の つぎに 母音字 または y が つづく ときは きる印(')で くぎります。
  2. 促音(ッ)は つぎの 子音字を かさねます。
  3. 長音(ー)は のばす 母音字に 山形(^)を のせます。

onsen(温泉)
sinbun(新聞)
hon'ya(本屋)
kitte(切手)
zassi(雑誌)
itti(一致)
utyû(宇宙)
kibô(希望)
takusî(タクシー)
Tôkyô(東京)
Yamada Tarô(山田太郎)
Mukasi mukasi, aru tokoro ni ozîsan to obâsan ga imasita.


イ段の 長音を ii に する 書きかたが あります。くわしくは「îii と 書く?」を お読み ください。

takusii(タクシー)


ローマ字の 書きかたを しらべている 人は やさしい 説明が「あらまし」に ありますので,そちらも お読み ください。くわしい 説明は「書きかた」に あります。


「四つの言葉」から「小鳥」(昔の 教科書)

レオナルド・ダ・ビンチ著「随想録」の 一部です。カルデリノは イタリア語で,日本では ラテン語の Caladrius から カラドリウスと よんでいる ようです。

おぎない

訓令式という 名前(ふたつの 訓令)

「訓令式」は 正式の 名前では なく,訓令で さだめられた ことから ついた 名前です。訓令とは 行政機関に たいする 命令です。

その 訓令とは 1937(昭和12)年の 内閣訓令第三号「国語ノローマ字綴方ニ関スル件」です。これで 公式の ローマ字が でき,ルール上は ローマ字の つづりかたが 統一 されました。ただ,この あたらしい 方式には 名前が ついていなかったので,ヘボン式日本式と 区別 する ために,自然と「訓令式」とか「国定式」と よばれる ように なり,やがて「訓令式」に おちついたという わけです。

1954(昭和29)年の 内閣訓令第一号「ローマ字のつづり方の実施について」で この 訓令は 改定 されました。ただし,あたらしい 訓令には おおきな 問題が あり,ローマ字の 混乱を まねいています。くわしくは 「ローマ字のつづり方」で 説明 しています。

書きかたで 気を つける ところ

訓令式の「ローマ字表」は 母音字と 子音字の ならびかたが 五十音図と 規則的に 対応 しています。しかし,よく みると,〈ヂ〉〈ヅ〉〈ヂャ〉〈ヂュ〉〈ヂョ〉〈ヲ〉の 部分 だけは 不規則です。パソコンなどの 機械で 日本語を 入力 する ときの ローマ字入力では これらの 部分も 規則的です。そのため,ローマ字を よく しらない 人や ローマ字入力に なれている 人は「鼻血(はなぢ)」「三日月(みかづき)」を hanadi, mikaduki と 書いて しまう ことが あります。これは まちがいですから,気を つけて ください。

なぜ〈ヂ〉〈ヅ〉が di, du では なく zi, zu なのか,不思議に おもうかも しれませんが,その 理由は かんたんです。ローマ字は 日本語の 音声を ラテン文字で 書いた ものだからです。音声を 書く わけですから,おなじ 音声は おなじ つづりで 書きます。いまの 共通語では,〈ジ〉と〈ヂ〉および〈ズ〉と〈ヅ〉は おなじ 音声です。それで,〈ジ〉と〈ヂ〉は どちらも zi と 書き,〈ズ〉と〈ヅ〉は どちらも zu と 書く ルールに なっています。おなじ ように,〈ジャ〉〈ジュ〉〈ジョ〉と〈ヂャ〉〈ヂュ〉〈ヂョ〉は どちらも zya, zyu, zyo と 書き,〈オ〉と〈ヲ〉は どちらも o と 書く ルールに なっています。ときどき,di, du と 書くと 外国人が〈ディ〉〈ドゥ〉(または〈デュ〉)と 読んで しまうから こういう ルールに してあるのだと いわれる ことも ありますが,そうでは ありません訓令式は 合理的で 日本語らしい つづりに するという 設計方針で つくってあります。外国人が どう 読むかは 関係が ないので かんがえに はいっていません。

このように,ローマ字は 日本語の 音声を 書いた ものです。ローマ字入力の ように ふりがなを ABCに おきかえた ものでは ありません。ローマ字と ローマ字入力は 別の もので,ローマ字の つづりかたと ローマ字入力の キーの おしかたは まったく ちがいます。

訓令式が つかわれない 理由

ローマ字の 書きかたは「ローマ字のつづり方」で きまっていて,日本語を ローマ字で 書く ときは 訓令式を もちいる ことに なっています。それが 日本語の ルールです。この サイトも 訓令式を すすめています。(くわしくは「ヘボン式か 訓令式か」「訓令式の 根拠」を お読み ください。)

ところが,訓令式を つかう 人は あまり いません。ほとんどの 人は 一般に よく つかわれている ヘボン式を あたりまえの ように うけいれています。また,みずから すすんで ヘボン式を つかっています。これには いくつか 理由が あります。



企業の ロゴタイプ

まず,ヘボン式が 正式だと 勘ちがい されている ことです。その 原因は,政治的な 理由から,パスポートの ローマ字道路標識(案内標識)の ローマ字駅名標の ローマ字を はじめと する 公の ローマ字が ヘボン式の 変種に なっている ことです。日ごろ よく 目に する 企業の ロゴタイプも,ビジネス上の 理由から,ひろい 意味の ヘボン式の 一種で ある「英語式」に なっている ものが おおいでしょう。これらが 勘ちがいを ひろめています。

教育にも 問題が あります。「英語」の 教科書が「英語式」を 採用 している ことです。これが「国語」で ならった 正しい ローマ字の 知識を うわ書き して しまいます。「英語式」は あくまでも 英語の 書きかたで あり,正しい ローマ字では ないのですが,おおくの 英語教師は この 区別が わかっておらず,正しい ローマ字と 英語の 書きかたを きりわけて おしえていません訓令式は 日本語の 書きかたですが,「英語式」は 英語の 書きかたです(日本語から 英語に なった ことばを 書く 方法)。ところが,ローマ字を よく しらない 英語教師は この 区別を きちんと おしえていません。この ことが ローマ字の 正しい 理解を さまたげています。よく ローマ字教育の せいで 英語が わからなく なっていると いわれますが,事実は その 反対で,英語教育の せいで ローマ字が わからなく なっています。このような わけで,「国語」の ローマ字と「英語」の ローマ字の ちがいを 理解 している 人は あまり いません。訓令式は 小学生が おぼえやすい ように 単純化 した 幼稚な 書きかただと おもっている 人も いる ようです。

国際理解教育に 力が そそがれていない せいで,日本人の 国際感覚が まずしい ことも 理由の ひとつです。日本人の おおくは 国際化の 理念を 正しく 理解 していません。国際化と 英語化を とりちがえて,ヘボン式は 国際的だと 勘ちがい しています。その上,経済界や 教育産業から 英語コンプレックスを うえつけられています。日本人の「英語かぶれ」は 海外でも 有名で,わらいの 種に される ことも ある ほどです。こういう わけで,日本には「訓令式なんか かっこわるい」「ローマ字なんか かっこわるい」という 感覚が ひろまっています。


TINTIN

Tintinは ベルギーの 漫画(バンドデシネ)の キャラクターです。原作は フランス語なので,Tintinの 読みかたは〈タンタン〉です。写真は ロンドンに ある お店。

よく ある おもいちがいも 理由に なっています。sa を〈サ〉と 読んだら si を〈スィ〉と 読まなければ おかしいとか,ta を〈タ〉と 読んだら ti を〈ティ〉と 読まなければ おかしいとか,ローマ字を まるで 発音記号の ように かんがえている 人が います。このような 勘ちがいを していると,si, ti を〈シ〉〈チ〉と 読む 訓令式は おかしく みえて しまうでしょう。けれども,表音文字は 発音記号の ように 読む ものでは ありません。たとえば,イタリア語は ca を〈カ〉,ci を〈チ〉と 読みます。スペイン語は ga を〈ガ〉,gi を〈ヒ〉と 読みます発音記号は ひとつの 発音が ひとつの 記号に 対応 しますが,表音文字は ひとつの 発音が ひとつ 以上の 文字(つづり)に 対応 します。。しかも,表音文字は 言語に よって 読みかたが ちがいます。たとえば,中国語は xi を〈シ〉,qi を〈チ〉と 読みます。chi は 英語なら〈チ〉と 読みますが,フランス語なら〈シ〉,ドイツ語なら〈ヒ〉,イタリア語なら〈キ〉と 読みます。表音文字の 読みかたとは こういう ものです。ところが,極端に かたよった 外国語教育の せいで,世界の 言語に かんする 知識が ほとんど なく,外国人は みんな chi を〈チ〉と 読む ものだと おもいこんでいる 人が います。その 結果,〈チ〉を chi と 書く ヘボン式は 国際的で すぐれた 方式だと 早とちり して しまい,すすんで ヘボン式を つかう 人が でてきます訓令式で tya, tyu, tyo を〈チャ〉〈チュ〉〈チョ〉と 読むのが おかしいと いわれる ことも ありますが,これも おかしな ことでは ありません。英語の meet you の 発音は〈ミーチュー〉に ちかいでしょう。このように,〈ティ〉と〈チ〉は 発音が にていて,しかも〈チ〉の ほうが 楽に 発音 できるので,〈ティ〉が〈チ〉に かわって しまう 現象は よく おこります。日本語の「ち」も いまは〈チ〉と 読んでいますが 昔は〈ティ〉と 読んでいました。

つきつめると,訓令式が つかわれない 理由は まちがった 言語政策と 大衆の 無知で あると いえます「無知」は バカに して いっているのでは ありません。日本で 教育を うける 人が 英語 以外の 外国語や ローマ字の 知識から 政治的な 意図で とおざけられている ことを 問題に しています。その 意味で,すべては 政治の まずしさから きているとも いえます。ローマ字教育に かぎった 話では ありませんが,政治的な 力が 教育を ゆがめている ことは おおきな 問題です。



「北京」の ピンイン表記

現在,国際的な 場で「北京」は Beijing と 書かれます。これは ピンインという 中国語版の ローマ字です。ピンインは 中国語の 性質に あわせて 設計 された 中国語らしい つづりかたです。けれども,すこし 前まで「北京」は Peking と 書かれていました。これは イギリス人が つくった ウェード式という ローマ字です。中国は 英語風の ウェード式を やめて,中国語らしい ピンインに のりかえたのです。外国に たいしても ピンインを もちいる ように はたらきかけたので,いまでは 外国の 新聞も「北京」を Beijing と 書いています。

さて,日本は どうでしょうか。国際的な 場で「東京」は 英語風に Tokyo と 書かれます。訓令式は 国際標準(ISO 3602)にも なっているのですが,日本政府は これを 無視 しています。日本の ローマ字が 英語に にている ことは,外国人が 不思議に おもって ときどき 話題に する ほどですが,おおくの 日本人は その おかしさに 気づいてもいません。ローマ字に かんする かぎり,日本は 中国より おくれていると いわなければ ならないでしょう。

【読みもの】 Zyappu


Zyappu
nanbâ 17 natu gô 1998
natu da samâ da!
Inamori Izumi no sitai,
Tocca no wanpîsu de

1990年代に Zyappu(ジャップ)という 季刊の ファッション雑誌が ありました。日本人を さげすんで いう 英語の Jap を おもわせる タイトルは 反骨の 心意気を あらわす ものでしょう。内容も 服装情報誌の 枠に おさまらない 挑戦的な ものでした。

写真家でも ある 編集長の 伊島薫(いじま かおる)は ファッション雑誌を「理想の追求と実験の場」だと いって,実験的な 写真を すすんで とりいれました。中でも 刺激的だったのは,有名ブランドの 服を きた 女優が 死体を 演じる「連続女優殺人事件」シリーズです。伊島薫が うつくしさを おいもとめた 企画でした。

誌面の デザインでも 実験的と いえる さまざまな こころみを おこないました。タイトルを カタカナ表記の「ジャップ」から ローマ字の Zyappu に かえたのも その ひとつです。のちには 広告などを のぞく すべての 文章を ローマ字に あらため,読み手を おどろかせました。

Zyappu は 第21号まで 発行 されましたが,1999年に 出版社が たおれ,おしまれながら 休刊と なりました。