代用表記
DAIYÔ HYÔKI

代用表記とは
Daiyô hyôki towa

まにあわせの かきかた
Maniawase no kakikata

長音符号つき文字û, ô など)は あつかいにくいのが 欠点です。手がきなら どんな 文字でも かけますが,機械で ローマ字を 入力 する ときは 長音符号つき文字を つかえない 環境も あります。とくに 外国人は キーボードから 長音符号つき文字を 入力 できないかも しれません。ウェブサイトや メールの「文字ばけ」を 心配 する 人も いるでしょう。

そこで,長音符号つき文字を つかわないで 長音を かく 方法が きめて あります。ドイツ語には ä, ö, ü が つかえない ときに ae, oe, ue と かく やりかたが あります。これと おなじ ような きまりを ローマ字でも つくって おこうと いう わけです。このような まにあわせの かきかたを 代用表記と よんで います。

学校では おしえない
Gakkô dewa osienai

代用表記は「ローマ字のつづり方」に ふくまれて いません。つまり,公式の ルールに なって いません。学校でも おしえません。そのため,昔から ある かきかたで あるにも かかわらず,あまり しられて いません。

ヘボン式では つかわない
Hebonsiki dewa tukawanai

ヘボン式の ばあい,長音符号つき文字が つかえない ときは「英語式」に するので,代用表記は つかいませんヘボン式を このんで つかって いる 人は 長音符号を きらいますが,長音を かきあらわしたい 気もちは ある らしく,英語風に みえる oh を つかう ことが あります。ただし,英語の はなし手が それっぽい 発音で よみそうな つづりを 場あたり的に えらんで いる せいか,oh の つかいかたに 一貫性が ありません。そして,その つづりが 外国人に ただしい 発音で よんで もらえない ことは あまり 気に して いません。日本人が みた ときに 区別 できれば いいと いう かんがえなのかも しれません。

Yūko, Tarō(優子・太郎)〔ヘボン式
Yuko, Taro(優子・太郎)〔「英語式」

代用表記
Daiyô hyôki

代用表記の 種類
Daiyô hyôki no syurui

代用表記には 代表的な ものが 4種類 あります。ただし,つかいものに なるのは はじめの 3種類で,おぼえる 必要が あるのは はじめの 2種類です。

  1. 母音字を かさねる 〔母音字かさね式〕
  2. 母音字の うしろに 山形(^)を かく 〔^後置式〕
  3. 母音字の うしろに xを かく 〔x後置式〕
  4. 母音字の うしろに hを かく 〔h後置式〕

方式の 名前は この サイトが 勝手に つけた ものです。正式の 名前は ありません。

okaasan, oka^san, okaxsan, okahsan(お母さん)
otoosan, oto^san, otoxsan, otohsan(お父さん)

「母音字かさね式」
"Boinzi-kasanesiki"


「白鳥の王子」

â, î, û, ê, ô の かわりに aa, ii, uu, ee, oo と かく 方式です。

「ローマ字のつづり方」は そえがきの 第4項で 長音の 母音字が 大文字の ときは 母音字を ならべても いいと いって います。どういう ことかと いうと,「大阪」は ふつう Ôsaka と かきますが,これを Oosaka に しても いいと いう 意味です。

これに したがえば,【アー】【イー】【ウー】【エー】【オー】で はじまる 文や 固有名詞は 母音字を ならべて かけます。小説の 題名 などは すべて 大文字で かく ならわしが あるので,すべての 長音が これで かけます。

この かんがえを もっと ひろげて,大文字と いう 条件を なくしたのが「母音字かさね式」です。

raamen(ラーメン)
biiru(ビール)
suupu(スープ)
keeki(ケーキ)
toohu(豆腐)


「電報」 (昔の 教科書)

ここでは「17時」を ZYÛSITIZI で なく ZYUUSITIZI と かいて います。これは 大文字なので 「ローマ字のつづり方」に のっとった ただしい かきかたです。


「ドイツ語の 演説」
(巨人のあしあと 田中館愛橘博士逸話集)

ここでは 小文字でも 母音字を かさねて 長音を かいて います。


「母音字かさね式」には おおきな 利点が あります。「ピー」「ピーーーーー」の ちがいを 表現 できる ことです。オノマトペを かく ときに この 方式は とても 便利です。通常の かきかたには この 表現力が ありません。

ただし,これを つかう ときは,母音字の 数を おもいきって おおく して,ふつうの ことばと みた目で まぎれない ように して ください。

piiiiiii(ピーーーーーー)
buuuuuuun(ブーーーーーーン)
uwaaaaaaa'(ウワーーーーーーッ)
gwooooooo(グォーーーーーー)

利点は もう ひとつ あります。整列(ソート)する ときに 特別な 処理を しなくて いい ことです。たとえば,ファイル名・フォルダ名を この かきかたに すると,そのままで ただしい 順番(ABC順)に ならぶので,たいへん 便利です。


「母音字かさね式」には 欠点も あります。【アー/アア】【オー/オオ】などを 区別 できない ことです。しかし,これらの 発音は よく にて いるので,あまり 問題に なりません。下の 例で,【 】内の ひとつめの 発音が ただしく,ふたつめは まちがいですが,両者に おおきな へだたりは ありません両者の ちがいを 意識 して いる ことばも あります。たとえば,「奇異」と 鍵の「キー」は ちがう 発音だと 意識 して いるでしょう。「地位」【チー】で なく【チイ】に ちかい 発音で,「影絵」【カゲー】より【カゲエ】に ちかい はずです。

bataa【バター/バタア】(バター)
piiman【ピーマン/ピイマン】(ピーマン)
gyuunyuu【ギューニュー/ギュウニュウ】(牛乳)
oneesan【オネーサン/オネエサン】(お姉さん)
doobutu【ドーブツ/ドオブツ】(動物)

その 反対に,ふつうの 表記が 代用表記に みえて しまう ことも あります。これを 代用表記だと おもって 長音の 発音を して しまっても,おおきな 問題は おこりません。

baai【バアイ/バーイ】(場合)
kiiro【キイロ/キーロ】(黄色)
mizuumi【ミズウミ/ミズーミ】(湖)
kareeda【カレエダ/カレーダ】(枯れ枝)
aooni【アオオニ/アオーニ】(青鬼)

欠点は もう ひとつ あります。おなじ 母音字が 3個 以上 つづくと よみかたが わからなく なる ことで,これは 問題に なります。これを ふせぐには きる印(')が 必要です。

sooon【ソーオン/ソオーン】
soo'on(騒音)
yuuutu【ユーウツ/ユウーツ】
yuu'utu(憂鬱)
kooo【コオー/コーオ】
ko'oo(呼応)koo'o(好悪)
hoooo【ホーオー/ホオーオ】
hoo'oo(法王)


ローマ字の 方式に かかわらず,イ段の 長音を つねに「母音字かさね式」の 代用表記に する かきかたが あります。iî が みわけにくい こと などが 理由です。くわしくは「îii と かく?」を およみ ください。

ozîsan, oziisan(お爺さん)
sîtake, siitake(シイタケ)


オ段の 長音は oo より ou の ほうが いいと おもう 人が いるでしょう。しかし,これは よく ない かきかたです。理由は ふたつ あります。

ひとつは 代用表記だと 気づかないで よんだ ときの 問題です。上で のべた ように,「母音字かさね式」は まちがって よんでも おおきな 問題が おこりません。それは【オー/オオ】が よく にて いるからです。けれども,【オー/オウ】は にて いません。「講師」の 発音は【コーシ】ですが,これを まちがって【コオシ】と よんでも おおきな 問題は おこりませんが,【コウシ】と よんだら「子牛」に きこえて しまって はなしが つうじません。

もう ひとつは ふりがなに ひきずられて いる ことです。【オー】ou と かきたく なるのは,おうさま」(王様)の ように,【オー】の 音声は ふりがなで「おう」と かく ことが おおいからです。しかし,おおあめ」(大雨)オーロラ」も おなじ【オー】の 音声です。「おう」「おお」「オー」を すべて ou と かくのは おかしいでしょう「おう」「おお」「オー」の 数を くらべると「おう」が 圧倒的に おおいので,【オー】ou で 統一 する かんがえも 一応は なりたちます。ふりがなの かきかたを さだめて いる 現代仮名遣いでも【オー】は 基本的に「おう」と かく ルールに なって いて,「おお」「オー」は 例外の あつかいです。しかし,はじめに のべた 理由が あるので,ou を とる ことは できません。現代仮名遣いが「おう」を 採用 したのは 失敗で,日本語の よみかきが むつかしい 原因の ひとつに なって います。

ここで,「おう」「おお」「オー」ou, oo, oh の ように かけば いいと かんがえる 人も いるでしょうが,それは できません。ローマ字は 日本語の 音声を かく ものだからです。ふりがなで どう かくかに かかわらず,おなじ 音声は 基本的に おなじ つづりで かくのが ローマ字の きまりです「おう」「おお」「オー」ou, oo, oh の ように かきたく なる 人は ローマ字と ふりがなの 関係を きちんと 理解 できて いないのかも しれません。くわしくは「ローマ字と ふりがな」を およみ ください。

「^後置式」
"^-kôtisiki"

â, î, û, ê, ô の かわりに a^, i^, u^, e^, o^ と かく 方式です。

「^後置式」は ほかの 方式に くらべて よみやすいのが いい ところです。また,可逆的で ある ことも 利点です。つまり,長音符号つき文字に もどせます。

しかし,記号を ふくんで いる ために すこし つかいにくいのが 欠点です。メール アドレス・URLファイル名・フォルダ名 などの つかい道を かんがえれば,記号は ない ほうが いいでしょう。

ra^men(ラーメン)
bi^ru(ビール)
su^pu(スープ)
ke^ki(ケーキ)
to^hu(豆腐)

「x後置式」
"x-kôtisiki"

â, î, û, ê, ô の かわりに ax, ix, ux, ex, ox と かく 方式です。

「x後置式」は エスペラントの 代用表記(x後置式)を まねた ものです。可逆的で,長音符号つき文字に もどせます。しかも,記号を ふくまないので,つかい道を えらびません。ふつうの テキスト エディターで ローマ字文を かく ときに 単語選択や 単語検索を しやすい 利点も ありますエスペラントでは 英語の ch, sh に あたる 子音を ĉ, ŝ と かきます。この 特殊な 文字が つかえない ときの ために,まにあわせの かきかたが きめて あります。これを「代用表記」と いいます。いくつか 方式が あり,その ひとつが ĉ, ŝcx, sx に する「x後置式」です。エスペラントは x を つかわない 言語 なので,この かきかたで 問題は おこりません。

ただし,x を 記号の ように つかって いる ところに 違和感を もつ 人も おおく,あまり つかわれません文字を 記号の ように つかうのは 特殊な ことでは ありません。英語も ch, sh などで h を 記号の ように つかって います。

raxmen(ラーメン)
bixru(ビール)
suxpu(スープ)
kexki(ケーキ)
toxhu(豆腐)

母音字が 大文字の ときは x も 大文字に する 流儀が あります。

Oxsaka, OXsaka(大阪)

「h後置式」
"h-kôtisiki"

â, î, û, ê, ô の かわりに ah, ih, uh, eh, oh と かく 方式です。

rahmen(ラーメン)
bihru(ビール)
suhpu(スープ)
kehki(ケーキ)
tohhu(豆腐)

「h後置式」は ドイツ語の つづりを まねた ものと いわれて います。この 方式には h の つぎに 母音字 または h, w, y が あると よみかたが わからなく なる 欠点が あります。これを ふせぐには きる印(')が 必要です。この 欠点は 重大で,実用の レベルで 問題が あります。もっと はっきり いえば,「h後置式」は つかいものに なりません。

kohun【コーウン/コフン】
koh'un(幸運)
tohhu【トーフ/トッフ】
toh'hu(豆腐)
yuhwaku【ユーワク/ユファク】
yuh'waku(誘惑)
tuhyaku【ツーヤク/ツヒャク】
tuh'yaku(通訳)


「h後置式」と よく にた かきかたに,オ段の 長音だけ oh に する かきかたが あります。スポーツ選手の 名前で つかわれた ことから ひろく しられる ように なり,いまでは 一般人の あいだでも つかわれて います。外務省も パスポートの 名前の かきかたに これを とりいれて います。

しかし,オ段の 長音だけ oh に する かきかたは まちがいです。一般人が かいて しまう 変な ローマ字の ひとつに なって いて,「スポーツ選手式」とか「野球選手式」などと よばれて います。

Satoh Yuhka (佐藤優香) 〔「h後置式」〕
Satoh Yuka (佐藤優香) 〔「スポーツ選手式」

「野球選手式」「スポーツ選手式」には 特色が ふたつ あります。ひとつは かならず ヘボン式の つづりで つかわれる ことです。訓令式を 意識 して つかって いる 人が この かきかたを する ことは まず ありません。もう ひとつは つかいかたに 一貫性が ない ことです。つかいかたが 気まぐれで,つかったり つかわなかったり します。「野球選手式」「スポーツ選手式」を つかう 人に 共通 して いるのは,ルールに のっとって ローマ字を かくと いう かんがえが まったく ない ことです。もしかしたら,ローマ字を かいて いる つもりでは ないのかも しれません「h後置式」は 実用性に かける ものの,一応は かんがえて つくられて います。ルールも かんたんで,だれが かいても おなじ つづりに なります。それに たいして,「野球選手式」「スポーツ選手式」は 理屈に もとづいて おらず,oh の つかいかたが 人に よって ちがいます。なぜ スポーツ選手が oh を このんで つかう ように なったのかは よく わかりませんが,この かきかたを 世の中に ひろめたのが プロ野球の 王貞治選手で ある ことは はっきり して います。プロ野球は アメリカの まねを する ことに 意味が ある ため,英語風に みえる つづりに したとも かんがえられます。外務省が パスポートに 日本人の 名前を 英語風の つづりで かかせて いるのも おなじ 理由かも しれません。しかし,英語の はなし手が oh【オー】と よむとは かぎりませんし,o【オー】と よまないとも かぎりません。John【ジョン】で,go【ゴー】でしょう。(英語の つづりで,ohho【ア】と よませない ための 目印で,発音を ながく のばす はたらきは ありません。)

Ohtani Shohei(大谷翔平)
GYOZA OHSHO(餃子の王将)


「ローマ字一週間」(英文大阪毎日学習号編輯局)

これは 大正時代に かかれた ヘボン式の 解説書ですが,人名に かぎって oh を みとめて います。英語に かかわる 分野では 昔から oh に 肯定的だった ようです。

代用表記を つかわない やりかた
Daiyô hyôki o tukawanai yarikata

99式
99-siki

99式長音符号つき文字を つかわずに 長音を かきますから,代用表記の 必要が ありません。よみ手が 99式を しって いれば,これが つかえます。

raamen(ラーメン)
biiru(ビール)
suupu(スープ)
keeki(ケーキ)
touhu(豆腐)

ただし,99式は 現代仮名遣いと おなじ 欠点を もって います。実用の レベルで おおきな 問題は おこりませんが,性能が おとります。代用表記を しって いる 人が あえて 99式を えらぶ 理由は ないでしょう。

kousi【コーシ/コウシ】
→ kousi(講師)ko'usi(子牛)
yuuutu【ユーウツ/ユウーツ】
→ yuu'utu(憂鬱)
kouu【コーウ/コウー】
→ kou'u(降雨)

「英語式」
"Eigosiki"

もう ひとつ かんがえられる 手は「英語式」です。しかし,これは つかわない ように して ください。

Ono(小野? 大野?)
Yuki(雪? 勇気?)
obasan(おばさん? おばあさん?)
zeni(銭? 善意?)

代用表記は ほぼ ただしい 発音で よめますが,「英語式」は ただしい 発音で よめません。それどころか,「英語式」では 日本語の 文章が かけません。ローマ字は 日本語の 文章を かく ために あるのに,「おばさん」と「おばあさん」を 区別 できない かきかたでは それが できないからです。これでは つかいものに なりません。

「英語式」本物の ローマ字では ありません。きびしく いえば,にせ物の ローマ字です。学校の「英語」の テスト 以外では できるだけ つかわない よう おすすめ します。

おぎない
Oginai

おまけの メリット
Omake no meritto

代用表記には おまけの メリットが あります。キーボードの あつかいが 楽に なる ことです。長音符号つき文字を 機械で 入力 する ときは,デッドキーを つかったり しなければ ならず,キーボードの あつかいが すこし 面倒です。代用表記なら それを しなくて いいので,タイピングが 楽に なります。代用表記に すると,字数は ふえて しまいますが,キーを たたく 回数は ほとんど かわりません。

これは メリットとも かんがえられます。自分用の メモ,友人あての メール,チャット などでは,長音符号つき文字が つかえる ときでも 代用表記で かいて かまいません。その ほうが 楽だからです。いって みれば「手ぬき入力」です。

「代用表記の かきかえ」ツール
"Daiyô hyôki no kakikae"

「^後置式」と「x後置式」は 可逆的で,ふつうの つづりに もどせます。しかも,それを するのに 人間が ひとつひとつ 目で みて かきかえる 必要は ありません。すべて 機械まかせに できます。

この サイトには その 処理を おこなう ツールが あります。それを つかえば,代用表記で おくられて きた メールの 文面を ふつうの つづりに もどして よんだり,「手ぬき入力」で 下がき した 文章を ふつうの つづりに もどして 清書 したり できます。この ツールは「代用表記の かきかえ」に あります。

代用表記の つかいわけ
Daiyô hyôki no tukaiwake

「h後置式」は つかいものに なりません。「母音字かさね式」「^後置式」「x後置式」を つかいわける よう おすすめ します。

つかい道の ひろさから かんがえた「つかいやすさ」,人間に とっての「よみやすさ」,長音符号つき文字への「もどしやすさ」の 3点で 各方式を くらべると,下の ように なります。

つかいやすさよみやすさもどしやすさ
「母音字かさね式」
「^後置式」
「x後置式」

そこで,つぎの ように つかいわける ことを おすすめ します。


つかいわけを おぼえるのが 面倒なら,「母音字かさね式」だけ おぼえて おけば いいでしょう。ほとんどの ケースは これで 対応 できます。もとの つづりには もどせませんが,それが 必要に なる 場面は すくないでしょう。