ヘボン式

あらまし

ヘボン式ローマ字は アメリカ人 宣教師の ジェームス・カーティス・ヘボン(James Curtis Hepburn)が 和英辞典「和英語林集成」を つくる ために かんがえだした 書きかたが もとに なっています。現在 ヘボン式と よばれている 書きかたは,ローマ字を ひろめる 運動を していた「羅馬字会」が ヘボンの アイデアに すこし 手を くわえた ものです。「和英語林集成」も 第3版からは この修正バージョンを 採用しています。


ヘボン式は アメリカ人が 日本語を 英語風に 書きうつした ものです。これは 日本人が 英語を カタカナで 書きうつした ものに あたります。カタカナ表記が 英語を 書きあらわすのに 適していない ように,ヘボン式は 日本語を 書きあらわすのに 適していません。

しかし,英語を まったく しらない 日本人でも,カタカナ表記の 英語を 読めば,英語の 発音を ある程度 再現できるのと おなじ ように,日本語を まったく しらない 外国人でも,ヘボン式を 英語風に 読めば,日本語の 発音を それなりに 再現する ことが できます。したがって,英語の 話し手が 日本の 固有名詞を あつかう 場合などに かぎれば,ヘボン式は 役に たちます。

ただし,ヘボン式が 英語に にているのは 子音 だけです。母音は イタリア語・ドイツ語などに にせてあります。


現在,ローマ字は 訓令式を つかう ことが 推奨されていて,ヘボン式は 非推奨の あつかいです。このサイトでも 訓令式を すすめています(くわしくは「訓令式の根拠」ページを お読み ください)。しかし,実際には 訓令式が つかわれる ことは すくなく,ヘボン式から 派生した 独自規格が さまざまな 分野で もちいられています。

海外でも ローマ字は ヘボン式が おおい ようです。これは「和英語林集成」が キリスト教社会を 通じて はやくから 世界に ひろまっていた こと,日本人が ヘボン式 ばかりを つかうので 外国人が それを 日本の 正式ルールだと 勘ちがい している こと,日本政府が 外国に 対して 訓令式を 尊重する ように はたらきかけていない ことが 原因です。

おきかえ表(ローマ字表)

ヘボン式には 国が さだめた 公式ルールが ありません。ここでは「ローマ字ひろめ会」が 提唱していた「標準式」を しめします。「標準式」は ヘボン式の 別名です。

aiueo
kakikukeko
gagigugego
スィ
sa(si)suseso
ズィ
za(zi)zuzezo
シャシュシェショ
shashishu(she)sho
ジャジュジェジョ
jajiju(je)jo
ティトゥ
ta(ti)(tu)teto
ディドゥ
da(di)(du)dedo
ツァツィツェツォ
tsa(tsi)tsu(tse)tso
チャチュチェチョ
chachichu(che)cho
ヂャヂュヂェヂョ
(dja)(dji)(dju)(dje)(djo)
naninuneno
ホゥ
hahi(hu)heho
ファフィフェフォ
(fa)(fi)fu(fe)(fo)
papipupepo
babibubebo
mamimumemo
イェ
ya(y)iyu(ye)yo
rarirurero
ウィウェウォ
wa(wi)(w)u(we)(wo)
キャキュキョ
kyakyukyo
ギャギュギョ
gyagyugyo
ニャニュニョ
nyanyunyo
ヒャヒュヒョ
hyahyuhyo
ピャピュピョ
pyapyupyo
ビャビュビョ
byabyubyo
ミャミュミョ
myamyumyo
リャリュリョ
ryaryuryo
ラ゜リ゜ル゜レ゜ロ゜
(la)(li)(lu)(le)(lo)
ヴァヴィヴェヴォ
(va)(vi)(vu)(ve)(vo)

※ カタカナは 音声を しめしています。( )は 標準音 以外を しめしています。

※ ラ゜,リ゜,ル゜,レ゜,ロ゜は 英語の L音に 対応する 音です。

※ ヴァ,ヴィ,ヴ,ヴェ,ヴォ は 英語の V音に 対応する 音です。

つけたし

  1. 撥音(ン)は その次に b, m, p が つづく ときは m,それ以外の ときは n で あらわします。n の 次に 母音字 または y が つづく ときは 切る印(')で くぎります。
  2. 促音(ッ)は その次の 子音が ch の ときは tch の 形にし,それ以外の ときは 次の 子音字を かさねて 書きます。次の 子音字が 2文字の とき(shなど)は 1文字め だけを かさねます。
  3. 長音(ー)は のばす 母音字に 山形(^)を のせます。

onsen(温泉)shimbun(新聞)hon'ya(本屋)
Nippon(日本)kitte(切手)itchi(一致)zasshi(雑誌)
Tôkyô(東京)Ôsaka(大阪)
Mukashi mukashi, aru tokoro ni ojîsan to obâsan ga imashita.

おぎない

ヘボン式ローマ字 だけを さだめた 公式の 国内規格が つくられた ことは 一度も ありません。しかし,明治時代から ヘボン式という 名前で 流通していた ローマ字が あり,戦後に さだめられた ローマ字の 公式ルール「ローマ字のつづり方」も その中の 第2表で ヘボン式を 部分的に とりいれています。第2表は「条件つきで つかって よい」と している 書きかたです。

小学校の 教科書などで よく みかける ローマ字の おきかえ表(ローマ字表)は 「ローマ字のつづり方」の 第1表(訓令式)と 第2表の 前半(ヘボン式)を あわせた ものです。しかし,ヘボン式には 上で しめした「標準式」の ような ものも ありました。よく ある タイプの 表に 書かれている ヘボン式 だけが ヘボン式では ありません。

また,明治時代から ある ふるい ヘボン式を もとに して 独自規格が つくられ,パスポート,地名,駅名などの 分野で つかわれています。日常生活で 目に する ローマ字は 道路標識の 地名や 鉄道の 駅名が おおいので,これらの 書きかたが 正しい ローマ字だと おもっている 人も おおい ようですが,それは まちがいです。


ヘボン式には 公式の 規格が ない ことも あり,書き手に よって つづりかたに ゆれが あります。具体的には,記号の つかいかたが まちまちです。長音符号は 山形(^)と マクロン(¯)が あり,くぎりの 記号は 切る印(')と ハイフン(-)が あります。今は マクロン(¯)と ハイフン(-)を 目に する 機会が おおいかも しれませんハイフン(-)を このように つかう ことは 外国人を おどろかせる はずですが,これを 気に する 人は すくない ようです。

hon-ya(本屋)den-en(田園)
Tōkyō(東京)Ōsaka(大阪)

また,長音符号を 省略する 書きかたも よく みかけます。これに ついては あとで 説明します。


ローマ字の 専門家は ヘボン式を「修正ヘボン式」と よぶ ことが あります。これは,ヘボンが「和英語林集成」の 初版で もちいた 初期バージョンが「ヘボン式」で,それに「羅馬字会」が 手を くわえた ものは「修正ヘボン式」だ,という かんがえから そう よんでいる ものです。

大正時代の 末,ヘボン式を ひろめる 運動を していた「ローマ字ひろめ会」は ヘボン式に「標準式」という 名前を つけて 宣伝する ように なりました。これは 田中館式が 日本式と よばれる ように なったからです。ヘボン式と 田中館式なら,どちらも 提唱者の 人名で 対等だったのですが,日本式に 対抗する ために あたらしい 名前が 必要に なった わけです。

「標準式」という 名前には,ヘボン式こそが 標準の ローマ字で,日本式は 非標準だ,という 意味が こめられています。


ヘボン式が 画期的だったのは,〈ホ〉や〈イ〉や〈ミ〉などが 日本語の 音声の 基本単位だと みきわめて,それらに 対応する ように ラテン文字を わりあてた ことですヘボン式より 前の ローマ字は これが 不完全だった ため,五十音図と ローマ字の つづりが 一対一に 対応していませんでした。。この意味では,ヘボン式は 英語を「ディス・イズ・ア・ペン」式の カタカナで 書きうつすのと 根本的に ちがいます「ディス・イズ・ア・ペン」式の 逆バージョンで,日本語を 英語風に 書くと すれば,「~です」「~ます」は -dess, -mass,「空気」は kooky と いった 具合に なるでしょう。このような 書きかたでは なく,日本語の 音声の 基本単位に 対応する 書きかたを 確立した ことが ヘボンの 功績です。


アメリカと イギリスは ヘボン式 だけを さだめた 規格を つくりました(ANSI Z39.11-1972, BS 4812:1972)。これらの 内容は ほぼ おなじです。長音符号は マクロン(¯)で,撥音(ン)は b, m, p の 前でも n に なっています。

ローマ字の 国際規格 ISO 3602 が できた ことを うけて,アメリカの 規格は 廃止されました。イギリスの 規格は 今も 有効の ようです。

ヘボン式か 訓令式か

一般に,ローマ字は ヘボン式が よく つかわれていて,訓令式は ほとんど つかわれていません。しかし,ローマ字の 公式ルール「ローマ字のつづり方」は,特別な 事情が ない かぎり,訓令式を つかう ように すすめています。このサイトも 訓令式を つかう ように すすめています。

くわしくは「訓令式の 根拠」ページで あきらかに していますが,ここでも ヘボン式を もちいる べきで ない 理由を いくつか のべておきます。

ローマ字は 日本語だから

ヘボン式を もちいる べきで ない もっとも わかりやすい 理由は,ローマ字は 日本語だからです。本来,ローマ字は 外国語とは 関係が ありません。日本語らしい 書きかたを するのが あたりまえでは ありませんか。

自分の ことばを わざわざ 外国語風に 書いている 先進国は 日本の ほかに ありません。中国も 韓国も そんな はずかしい ことは していません。日本が 本当に 自立した 国ならば,日本語を 英語風に 書かなければ ならない 事情は ない はずです植民地時代に 宗主国から おしつけられた 習慣から ぬけだせずに 苦労している 国は 世界に たくさん あります。

ここで いう 日本語とは 人名や 地名などの 固有名詞も ふくんでいます。ですから,日本語の 文章を すべて ローマ字で 書く わけでは なく,固有名詞だけを ローマ字書きに する 場合で あっても,かんがえかたは おなじです。

本当の ローマ字は 外国人では なく 日本人の ために ある ものです。日本語に ほこりを もち,日本語を 大切に しようと 心がけている 人なら,ヘボン式を もちいる べきでは ないでしょう。

ヘボン式は 日本人に とって 不自然だから

ヘボン式は b, m, p の 前に ある 撥音を m に しますが,日本語の 話し手は b, m, p の 前に ある 撥音と そうで ない 撥音とを 区別しません。そのため,この 書きわけは 不自然に 感じられます。

たとえば,ヘボン式では「あん」は an と 書くのに「あんパン」は ampan と 書かなければ なりません(anam に かわります)。これは 日本語の 話し手に とって 何の 役にも たたない 書きわけですから,何か おかしい 感じが するでしょう「空」は〈ソラ〉,「青空」は〈アオゾラ〉です。日本語の 話し手は〈ソラ〉が〈ゾラ〉に なるのを 自然に 感じますが,英語の 話し手は そんな 感覚を もっていません。それと おなじで,英語の 話し手は anam に なるのを あたりまえに おもっていますが,日本語の 話し手には そんな 気もちが わかりません。

普段は 意識していない ちがいを 書きわける 表記ルールは つかい勝手が よく ありません。感覚的に 区別していない ちがいを 書きわけようと すると,ちがいを かんがえながら 書く 必要が あります。これでは とても 実用に たえられません。

なっちゃん
なっちゃん
SUNTORY

また,ヘボン式では ch の 前に ある 促音を t に しますが,この 不規則性も 日本語の 話し手には わかりにくい ところです。ローマ字を よく しらない 人が ヘボン式の つもりで「あっち こっち」を acchi kocchi と 書いて しまうのは このためです。

このような 不規則性を もつ ヘボン式を 小学生に おしえるのは 不可能に ちかいと おもわれます。おそらく,ほとんどの 小学生は キャラクターの「アンパンマン」や ニックネームの「さっちゃん」を ヘボン式で 書く ことが できません。

ヘボン式は 日本語の 話し手の 感覚に あっていない ところが あり,不自然で 不便な 方式で あると いえます。

ヘボン式は 外国人に 親切では ないから

よく 訓令式は 外国人に とって 読みにくいと いわれます。その とおりです。しかし,読みにくいのは ヘボン式も おなじです。どういう わけか,ヘボン式は 外国人に とって 読みやすいと 信じている 人が おおいのですが,そんな わけが ありません。

ローマ字は 日本語で あり,外国人から みれば 外国語です。外国語は その つづりの 読みかたを 勉強し,その 発音を 練習して,はじめて 読める ように なる ものです。日本語を ヘボン式ローマ字で 書いた ところで,読みかたも しらず 発音も できない 外国人に 正しく 読める はずが ないでしょう。

ヘボン式は,英語圏の 人が 読みかたを 勉強する ときに おぼえやすい ルールに なっている だけです。特に,子音の 表記が 英語風に なっていて 日本語の 発音を 再現しやすい ように 工夫してあります。けれども,正確に 発音できるかと いうと,そんな ことは ありません。一般に,英語圏の 人は 日本語の 促音や 長音の 発音が 苦手で,なかなか 上手に 発音できないのが 普通ですたとえば,「来て」「聞いて」「切手」を 区別するのが むつかしい ようです。

英語圏の 人に とっても この程度です。非英語圏の 人に 対して ヘボン式は きわめて 不親切です。そして,世界の ほとんどの 人は 英語を 話しません。つまり,ほとんどの 外国人は ヘボン式を 正しく 読む ことが できません。

おおくの 日本人は この程度の 事実さえ しりません。外国語と いえば 英語しか おもいうかばない ほど,日本人の 言語観が やせほそっているからです。国際教育に 力が そそがれていない せいかも しれません。訓令式は〈チ〉を ti と 書いたり するから おかしい,といった 話も 英語以外の 外国語を しらない ことから きています。

外国人への 親切の つもりで ヘボン式を もちいるのは,たとえ 善意で やっているに しても,的はずれで 筋ちがいの 対応です。

ヘボン式は 国際化の 理念に あわないから

北京オリンピック
北京オリンピック

国際的な 場面で 日本の ことばを 英語風に 書く べきでは ありません。どこの 国も 自分の ことばは 自分の ことばらしく 書いています。

たとえば,中国は「北京」を Peking では なく Beijing と 書きますし,韓国は「釜山」を Pusan では なく Busan と 書きます。国際化の 理念に てらして みれば,これが 正しい やりかたでしょう。

日本も 日本語を 日本語らしく 書く べきです。そう しなかったら,外国人には 日本人が 日本語を 大切に していない ように みえて しまいます。このような 態度は 国際社会に おいて 尊敬されません。アメリカかぶれの 幼稚な 国だという あやまった 印象が ひろまると,日本は 世界の わらいものに なって しまいますおおくの 外国人は 日本語らしい つづりかたが どんな ものかを しりませんから,日本人が 英語風の つづりかた ばかり している ことに 気づいていません。しかし,教養の ある 人たちの 中には それを しっている 人も いて,日本人の 未熟な 国際感覚を みくだしています。本当の 意味の 国際化という 観点では,道路標識や 駅名の ローマ字は かなり はずかしい 状況に なっていると いえます。

ヘボン式の つかいどころ

それなら,ヘボン式は おぼえなくても いいのかと いうと,そんな ことは ありません。現実に つかわれている ローマ字は ほとんど ヘボン式ですから,すくなくとも 読めなければ なりません。また,次に あげる ケースの ように,ヘボン式の つかいどころは あります。

ひとつは,英語の 話し手の ために 書く 英文の 中に 日本語の ことばを いれる 場合です。英語の 話し手が 自分の ために 書く 英文で そう する 場合と,日本語の 話し手が 英語の 話し手に あわせて 書く 英文で そう する 場合が あります。英語の 話し手に とっては そう するのが あたりまえですが,日本語の 話し手が わざわざ そう する 理由は,相手が すこしだけ 読みやすく なるので,親切だと かんがえられるからですそれは 余計な おせっかいで,むしろ 相手を バカに していて 失礼だ,と かんがえる ことも できます。これは 書き手の かんがえかた 次第です。また,その 英語が,英語の 話し手の ための 英語では なく,仮の 世界共通語としての 英語で ある ときは すこし 話が ちがいます。この ときは,英語の 話し手だけの 都合を かんがえるのは おかしいですから,ヘボン式を もちいる べきでは ありません。

それから,英語が 日本語の ことばを 外来語として とりいれる 場合です。これも 英語の 話し手が 自分で そう する 場合と,日本語の 話し手が 日本語を ひろめる ために そう する 場合が あります。

また,すこし 特殊な ケースとして,英語圏で 長期間 生活する 日本人が,現地の 文化に とけこむために,自分の 名前を 英語風の つづりかたに する 場合が あります。

これらの ケースでは ヘボン式を もちいるのが 自然でしょう。

山形か マクロンか

元々,ヘボン式の 長音符号は マクロン(¯)でした。ヘボンが つくった 和英辞典「和英語林集成」では マクロン(¯)が もちいられています。大正時代に「ローマ字ひろめ会」が「標準式」を つくった ときは 山形(^)に しましたが,今も ヘボン式の 長音符号は もっぱら マクロン(¯)が もちいられています。

ローマ字のつづり方」には 山形(^)しか 書かれていませんから,ルールに うるさい 人に いわせれば,マクロン(¯)は まちがいです。しかし,長音符号の 形に ふかい 意味は ありません。長音の 目印に なれば 役割として 十分なのですから,マクロン(¯)でも いい ように おもえます。

駅名標では マクロン(¯)が 採用されており,日常生活で よく 目に するため,マクロン(¯)が 正しいと おもわれている ほどです。また,マクロン(¯)は 手書きの ときに 山形(^)より 書きやすく,その形が「のばす音」を 連想させやすい,という 教育上の メリットも あります。

けれども,技術者の 中には 0(ゼロ)と 区別しやすい ように O(オー)の 上に 横線を 書く 人が いて,この 書きかたが 混乱を まねく おそれが あります。この問題は みすごせませんし,うまい 解決策も なさそうです。

やはり,長音符号は ヘボン式の ときも 山形(^)に しておくのが いい ようです。

長音符号を 省略する?

ヘボン式では 長音符号を 省略する 書きかたが よく おこなわれています。パスポート式道路標識の 地名が 長音符号を つかわないので,そういう 書きかたも できるとか,最近は そういう 書きかたも できる ように なってきたとか,そんな 風に かんがえている 人が いるかも しれません。

しかし,そうでは ありません。パスポート式道路標識の 地名の 書きかたは 正しい ローマ字では なく,ローマ字の 公式ルールを ないがしろに して つくられた 独自規格です。

× KATO CHA(加藤 茶)× TKAGI BU(高木 ブー)
× Tokyo(東京)/ × Osaka(大阪)

パスポートの ローマ字表記を インターネットで しらべると,パスポート式の 解説が たくさん みつかります。そこでは,その 書きかたを ヘボン式と よんでいる ことが おおい ようです。しかし,これは 誤解を まねきます。パスポート式は 英語風の 書きかた,もっと はっきり いえば「えせ英語」です。日本語を 記述する ローマ字では ないので,これを ヘボン式と よぶのは 無理が ありますヘボン式には 公式の 規格が ありませんから,「これが ヘボン式だ」と いいはれば どんな 書きかたも ヘボン式の 一種だ,と かんがえる ことも できない わけでは ありません。しかし,このサイトの 立場は ちがいます。このサイトは 日本語を ラテン文字で 書く 方法が ローマ字で,その中に いろいろな 方式が あると かんがえています。ヘボン式には さまざまな 流儀が ありますが,それらも ローマ字で ある 以上は 日本語を 書きあらわす ことが できなければ なりません。ところが,パスポート式は「おばさん」と「おばあさん」を 書きわける ことも できず,日本語を 書きあらわす 能力を もっていません。このような 書きかたを ローマ字と よぶ ことは できません。したがって,ヘボン式の 一種と かんがえる ことも できないのです。このサイトは パスポート式を「ふるい ヘボン式から 派生した 独自規格」と みなしています。

外務省は「し」「ち」「つ」「ふ」を shi, chi, tsu, fu に する 書きかたを ヘボン式と よんでいるので あって,パスポート式 そのものを ヘボン式と よんでいるのでは ない,と かんがえて ください。


「和英語林集成」の長音表記
「和英語林集成」の長音表記

ヘボン式でも 長音符号は かならず 書きます。昔の ヘボン式も 長音符号を 書いていました。画像は「和英語林集成」の 一部です。「度」と「胴」「道」「堂」「銅」などを 符号で きちんと 区別していた ことが わかります。

のちの 時代の ヘボン式も おなじです。大正時代に「ローマ字ひろめ会」が 提唱した「標準式」も 長音符号を 書きました。現在「ローマ字のつづり方」が みとめている ヘボン式(第2表の 書きかた)でも 長音符号を 書くのが ルールです。

長音符号が なかったら 日本語の 音声を 正しく 書きあらわす ことが できません。長音符号は 正しい ローマ字に 必須の 要素で あると いえます。


しかし,長音符号を 省略する ケースも あります。それは 英語の 話し手が 日本語を 書く 場合で,日本語を 正しく 書きあらわす 必要が ないからです。たとえば,アメリカ人は「東京」を Tokyo と 書いて〈トキオ〉と 読んでいます。これは 正しい ローマ字表記では ないし,正しい 発音でも ありません。けれども,それで かまいません。どんな 書きかたを しようが アメリカ人の 勝手だからです。

もう ひとつの 理由は,英語の 話し手は 長音を きちんと 発音できないので,長音符号を 書いても 役に たたないからです。日本人が lightright を どちらも「ライト」と 書いているのと おなじで,アメリカ人が「おばさん」と「おばあさん」を どちらも obasan と 書いたって いい わけです。

このように,英語の 話し手が 日本語を 書く ときは 英語風の 書きかたに します。日本語の 話し手が それに あわせる 必要は ありませんが,何か 理由が あれば,そう しても かまわないでしょう。

また,すでに 英語化している(英語の 辞書に のっている)「柔道」「剣道」の ような 外来語も 長音符号の ない つづりで 書きます。これは 英語風の 書きかたではなく,完全な 英語です。

from Tokyo to Osaka (東京から大阪まで)
judo and kendo (柔道と剣道)


企業名の ラテン文字表記

企業名の ラテン文字表記

ラテン文字表記の 企業名に 長音符号を 省略した 書きかたが おおいのは,英語の つもりで そのように 表記しているのだと おもわれます。ビジネスの 世界では 英語が 特別な 意味を もっていますから,英語風の 書きかたに する 理由が ない わけでは ありません。自分の 名前を この 書きかたに している 人の おおくも,どういう 理由かは わかりませんが,おそらく 英語の つもりで そう しているのでしょう。

この 書きかたを する ときに 決して 訓令式が つかわれない ことや,「英語表記」という いいかたを する 人の おおさが それを 裏づけています。

しかし,本当は 日本の 固有名詞を 英語風の 書きかたに する べきでは ありません。そう する ことで うしなう ものが あるからです。デメリットも わかった 上で 判断しなければ なりません。


長音符号を 省略する 書きかたは 幕末の 開国から はじまっていて,大正時代には 一般に ひろまっていた ようです。しかし,これは 英語圏の 外国人に だけ 都合が いい 書きかたです。日本人には 都合が わるい 書きかたで,日本語を まともに 書きあらわす ことも できません。

それなのに,日本人自身が この 書きかたを すすんで つかいたがるのです。なぜでしょうか? 理由は いくつか あります。

まず,長音符号が きらわれている ことです。日本人の おおくは 英語以外の 外国語を よく しりません。特に,符号つきの 文字を つかう 外国語を しらないため,長音符号に 違和感を もって しまうのです。しかも,長音符号の ついた 文字は パソコンなどの 機械で 入力しにくいため,どうしても 敬遠されて しまいます。

もっとも おおきな 理由は 英語や アメリカの 影響です。日本人には アメリカ崇拝や 英語信仰とも いえる,はげしい 劣等感を もっている 人が すくなく ありません。そのため,何でも アメリカ風が よいと おもいこみ,英語風の 書きかたが 時代に あっていると かんがえたり,奇妙な 符号が ついた ローマ字なんか かっこわるいと 感じたり しがちです。

教育も よく ありません。「英語」の 教科書は 日本人の 名前を 英語風の 書きかたに しています。国際化の 教育が きちんと おこなわれていないため,経済活動の グローバル化と 本当の 国際化を とりちがえて しまい,英語を 世界の 共通語だと かんがえている 人も います。

きわめつけは アメリカに こびへつらう 日本政府の いじけた 態度でしょう。占領期の 支配者に 今でも つきしたがい,道路標識の 地名表記などに みられる,まちがった 言語政策を おしすすめていますこれは 一種の 文化破壊で あり,本当なら 保守派の 中から これに あらがう うごきが でてこなければ ならないのですが,そんな 志を もった 人も いない ようです。

このような わけで,おおくの 日本人は 日本語を 日本語らしく 書く ことを わすれて,英語風に 書く ことを めざしています。ローマ字を 書いている ときに 日本語を 書いているという 意識が なく,「英語表記」や「英語と 日本語の 中間的な もの」を 書いている つもりなのです。大野さんが 自分の 名前を カタカナで「オノ」と 書く ことは ありえないのに,ローマ字で Ono と 書いて 平気で いられるのは これが 理由です。Ono を 日本語だと おもっていないのです。Oh no!

【読み物】「和英語林集成」デジタルアーカイブス

「和英語林集成」デジタルアーカイブス
「和英語林集成」デジタルアーカイブス

ヘボンは 1859(安政6)年に 日本へ やってきて,その 数年後に ヘボン塾を つくりました。この ヘボン塾が 明治学院大学の ルーツです。また,ヘボン塾の 女子部は フェリス女学院大学に なりました。

明治学院大学図書館は 「和英語林集成」デジタルアーカイブス で「和英語林集成」の 画像データを 公開しています。このサイトが おもしろいのは 実際に 辞書を ひける(検索できる)ことです。ヘボン式の 資料として,これ以上の ものは ないでしょう。

また,ヘボンが ローマ字を かんがえていた ときの 手稿,「和英語林集成」の 初版,再版,第3版以降に おける ローマ字の うつりかわりも しる ことが できます。

たとえば,〈ズ〉は dz, zzdzdzuzu と 変化した こと,〈フ〉は 手稿の 段階から ずっと かわらず fu で あった こと などが わかります。